偏向電磁石
名古屋大学で計画中のシンクロトロン光施設では、X線領域のシンクロトロン光を発生させるために5T超伝導偏向電磁石を蓄積リングの偏向電磁石の一部に使用する。蓄積電子エネルギーは1.2GeVであり、超伝導偏向電磁石内での電子の偏向角は12度である。この超伝導偏向電磁石を4台配置し、それぞれの超伝導偏向電磁石から2~3本のX線ビームラインを引き出す。それぞれのX線ビームラインでは、電子の偏向角が3度、6度、9度の位置からのシンクロトロン光を取り出す。
超伝導偏向電磁石のピーク磁場は5Tとした。加速器用電磁石では7T程度のものが超伝導ウィグラーとして稼動実績があるようであり、10Tのものも建設され磁場が確認されている。しかし、蓄積リングの運転に必須の偏向電磁石の一部であり、これが正常に機能しないと加速器の運転自体が停止してしまうことを考慮し、超伝導偏向電磁石として安定に稼動している実 績のある5Tを磁場強度として選択した。
超伝導偏向電磁石の大きさは、フィールドクランプを含めたビーム進行方向が840mm、幅1136mm、高さ2000mmである。鉄心形状は、真空ダクトのベーキング、真空ダクトもしくは電磁石の交換の可能性を考慮しC型とする。冷却には、コストとメンテナンス性を考えて小型冷凍機を使用し、それぞれの超伝導電磁石に1台ずつ配置する。冷凍機は2ステージタイプとし、第1ステージで熱シールドの冷却、第2ステージで液体ヘリウム温度まで冷却する。液体ヘリウムタンクをクライオスタット内に配置し、伝熱板を介してコイルを冷却する。冷凍機の故障や停電時でも、液体ヘリウムを定期的に補充することによって運転が可能な構成とする。数%程度予想される磁場強度の個体差は個別電源励磁とすることで対処する予定であり、磁場測定の精度で補正が可能である。